陰ヨガとは
陰ヨガは「陰陽思想」をベースにしたヨガのこと。呼吸に合わせて体を動かし、筋力を使うヨガ全般を「陽ヨガ」と呼ぶのに対して、筋肉の力を緩めて体の深部にアプローチしていくヨガを「陰ヨガ」と呼びます。回復・内観・安定感を促し、深いリラックス効果が期待できる陰ヨガについて、書籍やTTマニュアルから得た知識、体験から解説したいと思います。
背景
陰ヨガの創始者はポーリー・ジンクです。1989年、ポーリーが指導していたタオイストヨガに出会ったポール・グリリーが、ポーリーの下でヨガを学び、さらに本山博 博士の下で経絡理論を学びました。これらを統合し、陰ヨガという言葉を作ったのがサラ・パワーズと言われています。
陰陽思想とは
「陰陽思想」とは、自然界におけるすべてのものは陰と陽の2つの要素に分けることができ、「陰から陽へ」「陽から陰へ」と絶えず変化・循環していると考える中国古来の思想です。
上と下、表と裏、朝と夜というように、どちらか一方だけでは成り立たたない関係が私たちを取り巻く世界、そして私たちの中にも存在し、それらは相互に依存し合い、バランスを補い合っています。
この「陰陽太極図」は、どちらかが極限に達するとある時点で反対の性質に転化する(陰極まれば陽に転じ、陽極まれば陰に転ず)こと、陰の中にも陽があり(陰中の陽)、陽の中にも陰がある(陽中の陰)という陰陽思想の世界観を表しています。
陰陽は、天・日・気・火の性質が大き方を「陽」、地・月・形・水の性質が多い方を「陰」として分類できます。
陰陽を1日の中で見ると、活動的になる昼間は「陽」、休息へと向かっていく夜は「陰」の時間と捉えることができます。
陰ヨガの特徴
陰ヨガは関節を育み、柔軟性を高めることを目的としたヨガです。私たちの体は30代前半頃から徐々に水分を失っていきます。特に関節包にある髄液成分が減り、何もしなければ動きの滑らかさが減り、可動域が狭くなっていきます。ですが関節は筋肉と同じ方法で回復することはできません。ここでは関節の硬直や固定化を防ぐ陰ヨガのアプローチを紹介します。
〈特徴〉
- 力を抜いてポーズに入るため、立位のポーズがない。
- 静止時間が長いので、通常汗をかいたり体から熱を発することはない。
- メインターゲットは関節・結合組織で、ゆっくり時間をかけて柔軟性を高めていくことができる。
〈陰ポーズ3つの原則〉
- 適切な圧力
ポーズに入った時、体に無理することのなく適切な圧がかけられるポジションを見つけます。リラックスしすぎない程度の感覚があるようにします。 - 受動的な筋肉
筋肉に力を入れずに静止します。筋肉を柔らかく受動的に保ち、結合組織や関節、骨といった隠れた場所にも気が満たされるようにします。 - 長いホールド
通常3〜5分、長い場合は10分程ポーズを保ちます。ポーズを保ちながら呼吸します。これにより気が集まり、関連する経絡へ流れていきます。
陰ヨガの効果
陰ヨガは関節の柔軟性を高めることで*経絡を育み、内気が巡るようになります。さらに陰ヨガの練習を行うことで「陰」の質を養うことができるようになります。
- 関節の可動域が広がるので陽ヨガを安全に行うことができる
- 体を緩めることで心理的・感情的な緊張が緩む
- ポーズに止まることで心の静寂や穏やかさがもたらされる
- 内面へ集中していくため、内省的・瞑想的な状態になる
- 内面の柔軟性・受容・委ねる心が育まれる
- 気を補充・回復する
- 経絡に働きかけ、内臓の働きを高める
これらは陰ヨガに期待できる効果の一例ですが、効果や感じ方にはもちろん個人差があります。練習を継続することで体の変化が感じられるようになったり、感覚も研ぎ澄まされていくでしょう。陰ヨガを安全に練習するために、最初は指導者のもとで練習することをおすすめします。
*経絡とは、「気」が流れる川のようなもので身体中を流れいる、各組織や臓器を結びつけ包み込む包括的ネットワークのこと。インドでは「ナディ」とも呼ばれています。
陰ヨガはこんな人におすすめ
- 怪我などで関節を長く使わない状況が続いた後のリハビリを行いたい
- いつまでも関節を柔軟に保ちたい
- 心身の健康を育みたい
- 体をゆるめリラックスしたい
- 落ち着きを取り戻したい
- 瞑想の前段階として取り入れたい
- 思考を静めリセットしたい
陰陽はお互いにバランスを補い合っているので、陽ヨガを練習している人には、その補完として陰ヨガを練習するのがおすすめです。また、現代の生活は何かと忙しく、陽のエネルギーに偏りがちなので、意識的に陰の時間を持つ意味でもおすすめのヨガです。
陰ヨガと五行説
冒頭で陰ヨガとは「陰陽思想」をベースにしたヨガであると書きましたが、「陰陽思想」と並ぶ古代中国の自然哲学思想「五行説」も、陰ヨガの中で応用することができます。
「五行説」とは、万物は五つの元素(木・火・土・金・水)から成り立っており、相互に関わり合い、変化し、循環しているという考え方で、この五大元素を自然界や人体に当てはめて、それぞれに関連性を見ていくことができます。例えば自然界であれば季節、人体であれば五臓(肝・心・脾・肺・腎)、という具合に照らし合わせることで、今自然界で強く現れている事象と人体への影響を紐付け、どのように対応すれば良いかを理解する助けになります。
経絡にアプローチする陰ヨガ
陰ヨガでは、特定のポーズを行なうことで経絡に積極的に働きかけ、対応する内臓に気や血を巡らせたり、陰陽のバランスを整えたりすることができます。
経絡とは、気や血が体内を巡るために縦横無尽に張り巡らされた通り道のことです。経絡は内臓と繋がっているため、特定の経絡を刺激することで、それに対応する内臓にその刺激を伝えることができます。
経絡を目でみることはできませんが、中医学ではこの経絡のメカニズムを使って病気の診断や治療を行うそうです。
季節をテーマにした陰ヨガのクラスでは、五行説の考えを土台として、その時期現れやすい心身の不調を整えたり、予防したりする目的で経絡にアプローチします。
最後に
陰ヨガを探求していくと、目には見えない部分や概念、未知の世界観に出会うことがあります。知らないことに出会うのはとっても面白いことですが、分かりにくかったり、本当かな?と疑ってみたり、理解しようと頑張って思考でいっぱいになってしまうこともあると思います。
それでも、普段何気なく過ごす中で自然界と自分との繋がりを感じていると、いつの間にかいろんなことが腑に落ちていたり、点と点がっていたことに気づく日がやってくるかもしれません。
ヨガは自分の体を使って内なる世界を旅することができる面白いツールですから、好奇心を持って心と体を感じてみてください。きっと自分の中に神聖でホッとできる場所があることを発見できると思います。
陰ヨガを体験しよう
東京・渋谷・新宿・世田谷エリア
en yoga
代々木公園駅すぐの場所で日曜日に開催されているen yogaでは月に1回のペースで陰ヨガクラスを開催しています。
本の紹介
「陰ヨガの新しい教科書 INSIGHT YOGA」
著:サラ・パワーズ
発行:2014年3月
出版:アンダーザライト ヨガスクール
「陰ヨガを伝える言葉:静寂を身につけ、余白を伝える 57のテーマ、46のシークエンス、33のスクリプト」
著:ガブリエル・ハリス
発行:2022年2月
出版:CAMMiiA BOOKS